ろくろ旋盤の手作り工具

(2017年2月8日追記:この資料は尼崎市文化財収蔵庫に移管しました)
(2012年8月3日追記:下記調査について、映像をYoutubeに公開しました)

 エル・ライブラリーは図書館ですから文献資料を紹介するのは当然のこととして、これまで、手書きの嘆願書や旗など、通常図書館では扱わないような資料をレアものとしてご紹介してきました。今回はなんと、工具です。

 国立産業技術史博物館構想が頓挫して、廃棄されてしまった産業資料二万点。そのうちの文献資料以外にも、小物機械など拾ってこれるだけのものを当館も救出したことはすでに何度もブログでお知らせしている通りです。
http://d.hatena.ne.jp/l-library/searchdiary?word=%2a%5b%bb%ba%b6%c8%bb%f1%ce%c1%b5%df%bd%d0%ba%ee%c0%ef%5d

 そのうち、大阪にあった仲津製作所と道上製作所が旧蔵していた手作り工具が「ろくろ旋盤」用の工具であることが判明したため、使用法についてエル・ライブラリーで聞き取り調査を行いました。

 産業技術史学会の先生たちも「これらの工具については使い方がわからない。これから研究していかねば」とおっしゃっていましたが、町工場で使われていた手作り工具というのは実際に使っていた職人でないと理解できないもののようです。ろくろ盤についての教科書もなく、職人の手作りによる工具であることがよくわかります。

 インタビュイーは谷合実(たにあい・みのる)、当館館長谷合佳代子の実父です。ここに写っている手作り工具は父が作ったものではありませんが、往時を知る旋盤工として父が工具を見ながら使用法を解説しています。


 産業技術史学会の会員立ち会いのもとに行われた聞き取り調査についてはビデオ撮影しました。また、当日のメモを廣田義人氏(大阪工業大学)が作成してくださいましたので、以下に転記いたします。

 なお、この資料について閲覧利用ご希望の方は事前に予約相談してください。今後、どのような形で資料を展示公開していくかについては現在検討中です。(谷合佳代子)

<当日配布資料>
参考文献『実地工作法見習から機械師になるまで』吉原鉄夫著 知進社 1941
    『基礎旋盤の多能作業法』大河内忠勝著 日本工業書院 1941
    『実地旋盤工作法 :附ねぢの切り方』南野政延著. 太陽閣, 1940
谷合実作成、ろくろ旋盤作業図

廣田義人氏作成記録

聞取り調査
谷合 実 氏(ミノル金属製作所)
日時 2009年6月7日15:00-17:00
場所 大阪府立労働センター内エル・ライブラリー
出席者 産業技術史学会関係者8名、エル・ライブラリー2名

道上製作所旧蔵ろくろ盤工具について
・金属の切削加工用(主として黄銅の加工に用い、鋼も加工可能)
・加工サイズ φ(直径)20−25mm 長さ50mm
・2m程度のバー(棒)材を加工する。1個加工しては、ステッキ(刃物の一種)で溝を入れて、切り落としていく。
・回転数500−600rpm(回転/分)(回転数固定)
・ペダル操作で正回転、逆回転可能
・加工精度0.05mm程度、あまり高い精度は出ない
・加工ロットサイズ 1000個程度の中量生産に使用
・現在でも水栓部品などの加工に使われている
・ろくろ盤には親ねじはなく、ダイスやタップをレバーで素材に押し当てて、おねじ、めねじを加工していた。
・工具は市販品にハイス(高速度鋼)を半田付けして、職人が手作りしていた
・半田付けなので刃物は取替え容易
・工具は共用していたが、自分独自の工具を持って工場を渡り歩く職人もいた
・入職した当初は油差しなどをさせられ、見よう見まねで2年ほどでろくろ盤を使わせてもらえるようになる。
・ろくろ盤の職人は出来高払いで仕事をしていたので、ろくろの回転を止める間もなく仕事していた。
・上面が傾斜した木製の刃物台は不定形の鋳物部品の加工に用いた。刃物台上にきさげ(スクレーパ)を手で保持して加工するが、熟練を要した
・ツイストドリルを用いて穴をあけようとすると、切り屑(切り粉)の排出のためにドリルを出し入れする必要があったので、半月錐(はんげつきり)を用いた。穴の底を直角にする必要がある時は平錐を用いた。
・櫛歯のようにひとつの工具に複数の刃物を半田付けした工具を工夫する職人もいた。
複写機三田工業など、ろくろ盤と4尺旋盤を併用していた工場もあったが、ろくろ盤加工専門の中小企業も多かった。
・ろくろでは管用ねじ3/8(さんぶ、直径16.662)まで、1/2(よんぶ、直径20.955)以上は旋盤で加工した
・昔はローレット加工済み材料がなかったので、ローレットで加工していた。
・水用の配管継手はろくろ盤で加工するが、空気用の配管継手は精度がいるのでろくろ盤ではだめ。
・仕上がり寸法は、主に現物合わせでチェックしていた。ノギス、マイクロメータ、パスは使っていたが、リミットゲージは高価なので、客先から支給されない限り用いることはなかった。
・ろくろ盤は市販されておらず、自作であった。
・ろくろ盤は油圧式自動旋盤に代わり、さらにNC旋盤に代わって行く。
・津上製作所がクリダン(仏)から技術導入したねじ切り旋盤は精度がよかった。
カム式で親ねじは使用せず、部品は市販の規格品ではなかったので津上から取り寄せる必要があった。

 ロクロ旋盤